ペルソナとはパーソナリティ(人格)やパーソン(人)の語源となったラテン語で、本来は劇の中で登場人物がかぶる仮面を意味した。そこから、やがて人の役割や社会的な適応を意味するようになった。例えば教師らしさや医者らしさといった役割としての「らしさ」であって、必ずしも生身のその人らしさでは無いところが重要である。人にはこのように外面的な側面と内面的な側面、言い換えれば建前の自分と本音の自分がある。ペルソナというのはこの建前の自分である。
ところで、このペルソナが強くなりすぎることがよくある。あまりに立派な先生やいわゆる善い人をやりすぎるといつの間にか本来の自分が見えなくなってしまうのである。多くの患者さんを見ていていつも実感するのがこのペルソナの強さである。すなわち、人に気を遣い周りに合わせてばかりいて、本音の自分を殺しているうちにいつしか自分の心の声を聴く能力が減退して、本当は何をしたいのか自分自身の本心が分からなくなってしまうのである。
Iさんは二十代後半の女子会社員であるが、人前で話すことや人に会うことが苦痛で会社へ行けなくなり、無気力でじっと家の中にいることに耐えられなくなったということで来院した。Iさんは二年前にもうつ病で一年間通院していたという。Iさんは確かにうつ的なはずなのにどういう訳か笑顔である。落ち込んでいても腹が立っていても人前ではいつも笑顔になってしまう。いわゆるペルソナが顔にへばりついてしまっているわけである。その後、二年間の通院で本音を出して人とつきあう練習をした結果、Iさんはすっかりペルソナを脱げるようになってきた。今では、恋人に三行半を突きつけたり、上司に食ってかかって自己主張したりできるようになりましたと本音の笑顔で語るIさんの顔は輝かしい。